ょう》から、胸がドキドキした。
「待て!」
彼れは、小屋のかげから着剣した銃を持って踊りでた。
若者は立止った。そして、
「何でがすか? タワリシチ!」
馴れ馴れしい言葉をかけた。倶楽部《クラブ》で顔見知りの男が二人いた。中国人労働組合の男だ。
「や!」
ワーシカは、ひょくんとして立止った。
「今晩は、タワーリシチ! 倶楽部で催しがあるんでしょう? 行ってもいいですか」
「ああ、よろしい」
青年たちは愉快げに笑いながら番小屋の前を通りすぎて行った。ワーシカは、ポカンとして、しばらくそこに不思議がりながら立っていた。密輸入者はどうしたんだろう。
だが、間もなく、ワーシカの疑問は解決された。朝鮮銀行がやっていた、暗黒相場のルーブル売買が禁止されたのが明らかになった。密輸入者が国外へ持ちだしたルーブル紙幣を金貨に換える換え場がなくなったのだ。
日本のブル新聞は、鮮銀と、漁業会社に肩を持って、ぎょうぎょうしげに問題を取り上げていた。
しかし、「そうだ、もっと早くから、ルーブル紙幣の暗黒売買を禁止しとかなけゃならなかったのだ! これさえ抑えとけば、香水をつけたり、絹の靴下をはいた
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