らと足もとへ落ちてきた。一人の少年が三十七個の化粧品の壜を持っていた。逃げる奴は射撃した。
 それは、一時途絶えたかと思うと、また、警戒兵が気を許している時をねらって、闇に乗じてしのびよってきた。
 五月にもやってきた。六月にもやってきた。七月にもやってきた。
「畜生! あいつらのしつこいのには根負けがしそうだぞ!」
 ワーシカは、夜が短い白夜を警戒した。涼しかった。黒竜江の濁った流れを見ながら、大またに、のしのしと行ったりきたりするのは、いい気持のものだ。
 八月に入って、密輸入者はどうしたのか、ふッと一人も発見されなくなった。「しかし、これで油断をしていると、またきゅうに、ドカドカと押しよせてくるんだぞ!」と警戒兵は考えた。
 ある日だ。太陽が没して、まだ、あたりが白く見えていた。対岸の三十メートル突きだした一番地理にめぐまれた地点から、三艘の舟が列をなして、こちらの岸へ吸いつけられるように流れてきた。ワーシカがこれを見た。彼れは身をひそめて待ちかまえた。
 舟は、矢のように岸へ流れ着いた。支那語で笑い喋りながら、六七人の若者がごそごそとあがってきた。ワーシカは、一種の緊張《きんち
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