ワイ》。」コーリヤは手を動かした。
でも、その手つきにいつものような力がなく、途中で腰を折られたように挫《くじ》けた。いつも無遠慮なコーリヤに珍らしいことだった。
武石も、物を持って来て、やっているんだな、と松木は思った。じゃ、自分もやることは恥かしくない訳だ。彼はコーリヤが遠慮するとなおやりたくなった。
「さ、これもやるよ。」彼は、パイナップルの鑵詰《かんづめ》を取出した。
コーリヤはもじもじしていた。
「さ、やるよ。」
「有がとう。」
顔にどっか剣のある、それで一寸沈んだ少年が、武石には、面白そうな奴だと思われた。
「もっとやろうか。」
少年は呉れるものは欲しいのだが、貰っては悪いというように、遠慮していた。
「煙草と砂糖。」松木は、窓口へさし上げた。
「有がとう。」
コーリヤが、窓口から、やったものを受取って向うへ行くと、
「きっと、そこに誰れか来とるんだ。」と、武石は、小声で、松木にささやいた。
「誰れだな、俺れゃどうも見当がつかん。」
「這入りこんで現場を見届けてやろう。」
二人は耳をすました。二つくらい次の部屋で、何か気配がして、開けたてに扉が軋《きし》る音が
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