片が、彼の方へとんで来た。彼の防寒|外套《がいとう》の裾のあたりへぱらぱらと落ちた。雪はまたとんできた。彼の背にあたった。でも彼は、それに気づかなかった。そして、じいっと、窓を見上げていた。
「ガーリヤ!」
彼は、上に向いて云った。星が切れるように冴えかえっていた。
「おい、こらッ!」
さきから、雪を投げていた男が、うしろの白樺のかげから靴をならしてとび出て来た。武石だった。
松木は、ぎょっとした。そして、新聞紙に包んだものを雪の上へ落しそうだった。
彼は、若《も》し将校か、或は知らない者であった場合には、何もかも投げすてて逃げ出そうと瞬間に心かまえたくらいだった。
「また、やって来たな。」武石は笑った。
「君かい。おどかすなよ。」
松木は、暫らく胸がどきどきするのが止まらなかった。彼は、武石だと知ると同時に、吉永から貰った金で、すぐさま、女の喜びそうなものを買って来たことをきまり悪く思った。「砂糖とパイナップルは置いて来ればよかった。」
「誰れかさきに、ここへ来た者があるんだ。」と武石が声を落して窓の中を指した。「俺れゃ、君が這入ったんかと思うて、ここで様子を伺うとったんだ
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