ている者が望ましい。
 肉に饉《う》えているのは兵卒ばかりではなかった。
 松木の八十五倍以上の俸給を取っているえらい[#「えらい」に傍点]人もやはり貪慾《どんよく》に肉を求めているのであった。
「私、用があるの。すみません、明日来てくださらない。」
 ガーリヤは云った。
「いつでも明日来いだ。で、明日来りゃ、明後日だ。」
「いえ、ほんとに明日、――明日待ってます。」

   四

 雪は深くなって来た。
 炊事場へザンパンを貰いに来る者たちが踏み固めた道は、新しい雪に蔽《おお》われて、あと方も分らなくなった。すると、子供達は、それを踏みつけ、もとの通りの道をこしらえた。
 雪は、その上へまた降り積った。
 丘の家々は、石のように雪の下に埋れていた。
 彼方の山からは、始終、パルチザンがこちらの村を覗《うかが》っていた。のみならず、夜になると、歩哨《ほしょう》が、たびたび狼に襲われた。四肢が没してもまだ足りない程、深い雪の中を、狼は素早く馳《は》せて来た。
 狼は山で食うべきものが得られなかった。そこで、すきに乗じて、村落を襲い、鶏や仔犬や、豚をさらって行くのであった。彼等は群をなして
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