とを命じた。それから、パルチザンを、捕虜とすることを命じた。それから……。
 汚れた百姓服や、頭巾は無抵抗に、武器を取り上げられたり、××××たり、――殺されたりなどされるがままになっている訳には行かなかった。木造の壁の代りに丸太を積重ねていた家の中や乾草の堆積のかげからも、発射の煙が上った。これまでの銃声にまじって、また別の異《ちが》った太く鈍い銃声がひびいてきた。百姓が日本の兵士に抵抗して射撃しだしたのだ。
「やはり、パルチザンだったですね、一寸、抵抗しだしました。」
 副官は、事もなげに笑った。
「おや! おや! 今度は、日本の兵たい[#「たい」に傍点]がやられました。」通訳は、前よりも、もっと痛切な声で叫んだ。「倒れました。倒れました。倒れて夢中で手と頭を振っとります。」
「三人やられたね。――一人は将校だ。脚をやられたらしい。」
「どうして司令官は、こんなことをやらせるんです! 悲惨です! 悲惨です! 隊長殿すぐやめさしておしまいなさい!」
 銃を乱射するひびきは、一層はげしくなってきた。丘の上に整列していた別の中隊は、カーキ色と、百姓服が入り乱れ、蠢く方をめがけてウワッと叫びながら馳せくだりだした。
 副官でない方の中尉は、通訳を、壊れかけた小屋の裏へ引っぱって行った。
「何を、君、ばかなことを云ってるんだ!」
 中尉は、腹立たしげに通訳に云った。
「だって悲惨じゃありませんか! あんまり悲惨じゃありませんか!」
「君自身が、たま[#「たま」に傍点]にあたらんように用心し給え!」
 中尉は通訳をにらみつけて大隊長のそばへ引っかえした。
 通訳は、小屋のかげから、悲鳴や叫喚や、銃声がごったかえしに入りまじって聞えて来る方をおずおず見やった。右の一層高くなっている麓に据えつけられた狙撃砲は、その砲《つつ》さきへ弾丸《たま》をつめこんで、村をめがけてぶっぱなした。
 だが、そのたまが、どこに落ちて、どれだけ家をつぶし、人を殺したか、もう通訳には分らなかった。乾草を積重ねてあるところと、それから、百姓家と、二カ所から紫色の煙が上って、そこらへんに蠢めき騒いでいる兵たいや、百姓や、女や子供達を包んでしまった。と、また、別の離れたところからも、つづいて煙が上りだした。兵士達は、大隊長の一つの命令を遂行したのだ。
 村は焼き払われだした。紫色や、硫黄色《いおういろ》の
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