乞はない乞食
添田唖蝉坊
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)絃《いと》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しゃべ[#「しゃべ」に傍点]ってゐる。
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指がなくて三味線を弾く男
浅草に現はれる乞食は、みなそれぞれに風格を具へてゐるので愉快である。乞食といふ称呼をもってする事は、この諸君に対してはソグハないやうな気がするくらいだ。いかにこれらの諸君が人生の芸術家であるか、また、浅草を彩るカビの華であるかといふことについて語らう。
浅草といふ舞台には、かかる登場者が順次に現はれ、消えてゆく。
指がなくて三味線を弾く男――。彼はロハベンチに腰を掛けてゐる。左の手の指が四本ない。残った拇指で、煙管の半分に折れた吸口の方を挟み、その吸口の膨れた部分、凹んだ部分を巧みに利用して絃《いと》をおさへる。バチの代りにマッチの棒で弾く。
離れて聴いてゐると、普通に弾いてゐるのとちっとも変りがない。一ぱいの人だかり、みんな感心して煙管の動きを目で追ひ、熱心に聴いてゐる。中には彼と同じベンチに彼に寄り添ふやうに腰かけてゐるものも
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