。一時間半程立つと、又非常に不平らしい顔をして、急いで這入つて来た。
「今市長の処へ行つて、全文を読んで貰つたのです。侮辱なんぞにはなつてゐないと云ふのです。これここに、差支なしと書いて貰つて来たですが。」
「市長が差支なくても、わたくしが差支があるです。」プラトンは強情にかう答へた。編輯長は又原稿を引つ掴んで行つた。それから二十分程立つと、電話がちりん/\と鳴つた。
「どなたですか。」
「知事だがなあ。なぜ排水工事の記事を削除するのか。」
 プラトンの顔は真つ赤になつた。そして目をきよろ/\させて、救を求めるやうに、あたりを見廻した。それから間もなく真つ蒼になつた。そして先頃宴会で胴上げをせられた跡でしたやうな手附きをした。
「どうも、その、市の事があまり悪く書き過ぎてありますので。」微かな、不慥かな声である。
「なに。ちつとも聞えない。なーぜーはーいーすーゐーこーうーじーのーきーじーをーつーうーくわーさーせーなーいーかーと云ふのだがなあ。」
「余り悪く、実際より悪く書いてありますから。」
「なに。もつと大きな声で言はんか。」
 プラトンは前の詞を今一度繰り返した。そして長官の返事を
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