。」
或る日編輯長がプラトンの事務室に、慌たゞしく這入つて来て、非常に不平な様子で、議論をし掛けた。
「あんまりひどいぢやありませんか。どう云ふお考だか、わたくしには丸で分かりませんなあ。なぜあの排水工事の記事をお削りになつたのです。」
此記事が削除せられたには、決して理由がないことはなかつた。それはかうである。先頃新聞に市の経理の記事が出た。プラトンが検閲して通過させたのである。ところが、その中に市の経理の失体を指※[#「てへん+適」、第4水準2−13−57]してゐて、それが誤謬の事実に本づいた立論であつた。そこで市長が、自分を侮辱したものと認めて、長官に訴へた。長官はプラトンを呼んで譴責した。「どうも個人攻撃を遣らせては行かんなあ。あんな当てこすりをするといふことがあるものか。君は読んで見て分からんのか。それでは見ても見ないでも」云々と云ふ小言であつた。それからと云ふものは、プラトンは一しよう懸命に「個人攻撃」を通過させまいと努めてゐる。併しどこまでが言論の自由で、どこからが個人攻撃になると云ふ境界を極めるのが、むづかしくてならないのである。そこでプラトンは編輯長にかう云つた。
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