。目が廻りさうです。」
「そんならこの「雑報」の方にしませう。どうです。これなら、強過ぎはしないでせう。」
 大勢の人の声が入り乱れて聞えるので、プラトンは気がぼうつとなつた。目の前には「記者」誰彼の顔が見えたり見えなくなつたりする。プラトンは総ての新聞社員を、通信員、校正掛まで皆記者だと思つてゐる。どれも/\引き合せられはしたが、何の誰やら、どんな為事《しごと》をする人やら、こんがらかつて分からなくなつてゐるのである。
 プラトンは一人の男に問うた。「あなたのお受持ちはなんでしたつけね。外国通信でしたね。」
 隣の編輯長が代りに答へる。「違ひますよ。隅にゐる先生は社説を受け持つてゐるのです。」
「外国通信の方《はう》はどなたでしたつけね。」
「それ、あそこの椅子に居眠をしてゐるでせう。あの男です」と、編輯長が云つた。
「本当のロシア人ですか」と、プラトンは書肆の耳に口を寄せて聞いた。
「さうですとも。正真正銘のロシア人です。」書肆は笑ひながら答へて、同時に一杯の「近事片々」を侑《すゝ》めた。近事片々とはリキヨオルの事である。
 新聞社員は総てプラトンに親しくした。どの人も大ぶ飲んでゐ
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