リカは、じぶんの鼻をこすつて、手袋をはめて、また、ぎよ車台にとびのりました。
「どう/\/\、ちきしよう。」
 リカは、長いむちを力一ぱいふりまはしました。そりは、ぎし/\きしみながら、又うごき出しました。
 コーリヤは、ぢつとちゞこまつて、身動き一つしませんでした。ちよつとでも動くと、北風は、どこかしらあたらしい入口をみつけて、ふきこんで来るからです。しかし、コーリヤの心の中は、だんだんにあたゝかいよろこびにみちあふれて来ました。コーリヤはこのそりが、じぶんのうちの大きな門のまへについたときのことを、心にゑがいてみました。
 そりがつけば、窓には弟たちの頭がちらちら見え出して、小さい手で窓硝子をたゝいてゐるのがきこゑて来ます。家中のものがみんな、げんかんへかけ出し、戸が、ばた/\とあくかと思ふと、ぢいやのドウナーシヤが階だんをころがるやうにかけおりて、そりからだき下してくれます。お父さんや、お母さんや、ワアニヤ叔父さんや、ドウーニヤ叔母さん、それから、けんか相手の弟のレワにボーリヤと、目の黒い妹のサーシュにもあへるのです。
 あゝ、家はいゝな。でも、冬休みはみじかいからつまらない。たつた二週間ぽつちです。するとまた学校へいかなければならない。さうだ、あともう一週間だけ、にせ病気になればいゝんだ。さうすれば、冬休みが三週間になるわけだ。でも、お父さんに見ぬかれたらだめだなァ。
 このほかに、もう一つ、コーリヤには心配なことがあります。それは、家へもつていく二学期の成績表の、算術の点が、たつた二点しかないことです。しやくにさはる点め。これさへなかつたら、コーリヤはどんなに仕合せだつたでせう。しかし、それだつてどうにか、算術の先生が意地わるなんだとか、みんなも、出来なかつたんだとか、うまく言ひわけをするからいゝよ。
 そんなことより、弟や妹たちが、じぶんが買つてきたクリスマスのおくりものをみたら、どんなにをどりあがつてよろこぶだらう。それに、お母さんは、蓄音器をかつたと手紙にかいてよこしたし、ああ、家へかへると、とてもおもしろいぞ。
 ぎよ車台のリカは、コーリヤの考へてゐることなんかにはおかまひなく、たゞ、むやみに鼻をこすつたり、こほりついた靴を、ばたばたうち合はせたり、手袋をはめた手をたゝいたりするだけで、なんにも、考へごとなんかはしませんでした。
「ほい、ちきしよう
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