屋にもどってみると、そのさわぎもすっかりおさまって、すみっこの寝床の上に死んだようになって、気の遠くなったダッタン人が寝かされていました。みんなはそのそばをだまったままよけて通るのでした。だれでも心の中では、なあに、あすの朝になったら気がつくだろうさ、と思いこんではいるのですが、「だが、なんともわからないぞ、あんなにやっつけられたんじゃ、ひょっとしたら死《し》ぬかもしれねえぜ。」とでも言いたそうな顔《かお》つきでした。
 わたしは、人をかきわけて、鉄格子《てつごうし》のはまった窓《まど》に向かった自分の場所《ばしょ》へたどりつくと、両手《りょうて》を頭《あたま》の下へあてがってあおむけにごろりと寝《ね》て、目をつぶりました。わたしはこうして寝ころんでいるのが好《す》きでした。だって、寝ている人にかまう者《もの》はないし、そのあいだに、いろいろなことを頭に浮《う》かべて楽《たの》しんだり、考えごともできるからです。けれどわたしは、今はそれどころではありませんでした。胸《むね》はどきどきして、耳には、「ちぇっ、あのごろつきどもめ!」という、ポーランド人のさっきのことばがひびくのでした。


前へ 次へ
全14ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング