「か、行ってくれるだろうかね?」
「なんの行かねえことがござりましょう、お寄りいたしますだよ、フョードル・パーヴロヴィッチ様なら、ずっと以前から存じ上げておりますだで」
「じゃ、これが駄賃《だちん》だ、たぶん親爺はよこしゃしないだろうからなあ……」とイワン・フョードロヴィッチは快活に笑いだした。
「へえ、全くくださる気づけえはござりましねえとも」とミートリイも笑いだした。「どうも、旦那、ありがとうございます、ちゃんとお寄り申しますよ」
午後の七時にイワン・フョードロヴィッチは汽車に乗ってモスクワへ向かった。『これまでのことは何もかも消えてなくなれだ、もちろんこれまでの世界も永久に葬り去って、音もさたも聞こえなくしなければならぬ。新しい世界へ行くんだ、新しい土地へ行くんだ、けっして後ろなんかふり返ることじゃない!』
歓喜の代わりに彼の魂は、今までかつて経験したことのない闇に閉ざされ、心は深い悲しみにうずき始めた。彼は夜は夜っぴて、とつおいつ物思いにふけっていたが、列車は遠慮なく走って行った。ようやく夜明けごろ汽車がモスクワの市街へかかったとき、彼は突然われに返った。『おれは悪党だ!』
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