、巧みに処理することができて、しかも、それだけが身上かと思われるようなたぐいの人間であった。たとえばフョードル・パーヴロヴィッチはほとんど無一物で世間へ出て、地主といってもきわめてささやかなものなので、よその家へ行って食事をしたり、居候に転がりこむことばかり狙っていたが、死んだ時には現金で十万ルーブルものこしていたことがわかった。それだのに、彼は依然として、一生涯を、郡内きっての最もわからずやの狂気じみた男の一人として押し通してしまったのである。くり返していうが、けっしてばかであったというわけではない。かえって、こういう狂気じみた人間の大多数は、かなり利口で狡猾《こうかつ》である、――つまり、わけがわからないのである。しかも、そこにはなんとなく独特な国民的なところさえうかがわれる。
彼は結婚して、三人の子を挙《あ》げた。――長男のドミトリイは先妻、次の二人、すなわちイワンとアレクセイとは後妻の腹から生まれた。フョードルの先妻は、やはりこの郡の地主でミウーソフという、かなり裕福で名門の貴族の出であった。持参金つきで、おまけに美しく、そのうえてきぱきした聡明《そうめい》な娘――こういった
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