闡Sく思いがけなく、うっかりベンチへ腰をおろしてしまった。この一瞬間、彼はほとんど恐怖に近いものを感じた。そのことは後になってもよく覚えていた。スメルジャコフは両手を背後へ回したまま、その前に立って、自信ありげなほとんどいかついくらいな眼眸《まなざし》で彼を見つめた。
「まだおやすみでございます」と彼は急《せ》かずに言った。(『口をきいたのはおまえさんのほうが先で、こちとらじゃないよ』とでも言っているようだ)「若旦那、あなたには驚いてしまいますよ」ちょっと口をつぐんでから、わざとらしく眼を伏せながら、彼はこうつけ加えると、右の足を一歩前へ踏み出して、エナメル塗りの靴の爪先を無意味に動かすのであった。
「どうして僕に驚いてしまうんだい?」イワン・フョードロヴィッチは一生懸命におのれを抑制しながら、ぶっきらぼうな荒々しい調子でこう言ったが、不意に、自分はなみなみならぬ好奇心をいだいていて、それを満足させないあいだは、どんなことがあってもこの場は離れられそうにないと気がつくと、われながらいやな気がした。
「どうして、あなたは、チェルマーシニャへお出かけになりませんので?」と、不意にスメルジャ
前へ
次へ
全844ページ中799ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング