ヲの足を接吻した民衆が、明日は、わしがちょっと合い図をしさえすれば、おまえを焼く火の中へ、われ勝ちに炭を掻《か》きこむことだろう、おまえはそれを知っておるのか? おそらく知っていられるであろうな』と彼は片時も囚人《めしうど》から眼を離そうとしないで、考えこむような風に、こう言い足したのだ」
「僕にはなんのことだかよくわかりませんよ、兄さん、いったいそれは何のことです?」ずっと黙って聞いていたアリョーシャは、ほほえみながら、こう尋ねた、「それはただでたらめな妄想《もうそう》なんですか、それとも何か老人の考え違いなんですか。なんだか本当にはなさそうな、qui pro quo(矛盾)じゃありませんか」
「じゃ、そうしておくさ」とイワンは笑いだした、「もしも、おまえが現代のリアリズムに心酔していて、幻想的なことには全然我慢することができないで、それを qui pro quo と考えたいというんなら、まあ、そんなことにしといてもいいよ、ほんとに」と彼はまた笑った、「その老人はもう九十という年なんだから、いいかげんにもう気ちがいじみた観念になっているかもしれない。それに囚人の風貌だって老人の心を打
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