ッな受難者のなんのいわれもない血潮の上に打ち建てられたような幸福に甘んじて、永久に幸福を享受するだろうなんかというような考えを、おまえは平気で認めることができるかい?」
「いや、できません。けど、兄さん」とアリョーシャは急に眼を輝やかしながら、こう言いだした。「兄さんは今、許すという権利を持ったものが、この世の中にいるだろうかと言いましたね? ところが、それがいるんですよ。その人ならばいっさいのことに対して、すべての人を許すことができるのです。それというのも、その人はあの人に代わって、自分で自分の無辜《むこ》の血を流したからです。兄さんはこの人のことを忘れていましたね。ところが、この人を基礎としてその塔は築かれるのです。この人に向かってこそ、『主よ、なんじのことばは正しかりき、なんとなればなんじの道は開かれたればなり!』と叫びもすることでしょう」
「ああ、それは『罪なきただ一人』と、あの手の血のことだろう! どうしてどうして、この人のことを忘れはしなかったよ。それどころか、どうしてこの人を引合いに出さないのかと、長いあいだ不思議に思っていたんだよ。だってたいていおまえたちは論争のときに
前へ 次へ
全844ページ中730ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング