轤「なら、母親がわが子を犬に引き裂かした暴君と、抱擁などしてくれなくってもいいんだ! 母親だって、暴君を許す権利はないのだ! もしも、たって望むなら、自分だけの分を許すがいい、自分の、母親としての無量の苦痛だけを許してやるがいい。しかるに八つ裂きにされたわが子の苦痛は、けっして許す権利を持っていないのだ。たとい、子供自身が許すといっても、その暴君を許すわけにはいかないのだ! もしもそうならば――もしも誰もが許す権利を持っていないとすれば、いったいどこに調和があり得るのだ? いったいこの世界に許すという権利を持った人間がいるだろうか? 僕は調和は欲しくない、つまり、人類に対する愛のために欲しくないというのだ。僕はむしろ報復されない苦悶をもって終始したい。たとい僕の考えが間違っていても、やるせない苦悶と、癒《い》やされざる不満の境にとどまるのを潔しとする。それに調和というやつがあまり高く値踏みされているから、そんな入場料を払うことは、どうも僕らのふところぐあいに合わないんだよ。だから僕は自分の入場券だけを急いでお返しする。僕が潔白な人間であるならば、できるだけ早くお返しするのが義務なんだよ
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