謔、だがね。僕はフランス語から訳したおもしろいパンフレットを持っている。これにはつい最近、ほんの五年ばかり前にスイスのジュネーヴで、ある殺人犯の悪党を死刑にした話が書いてあるんだ。それはリシャールという二十三になる青年で、死刑の間ぎわに悔悟してキリスト教にはいったんだそうだ。そのリシャールは誰かの私生児で、まだ六つくらいの子供のとき、両親が山に住んでいるスイス人の羊飼いにくれてやったのだ。羊飼いは仕事に使おうと思って、その子供を育てたわけだが、子供は羊伺いのあいだで、野獣のように育った。彼らは子供に何一つ教育を施さなかったばかりか、かえって七つくらいの年にはもう羊飼いに追い使ったくらいだ。しかも雨が降ろうが寒かろうが、ろくに着物も着せなければ食物さえほとんど与えなかったのだ。羊飼いの仲間はそんなことをしながらも、誰ひとり悪かったと言って後悔する者なんかありはしない。それどころか立派に権利でも持っているように考えていたのさ。なぜって、リシャールは品物かなんぞのようにもらい受けたのだから、養ってやる必要さえないと思ってたんだからね。リシャール自身の証言によると、そのころこの少年は、まるで聖
前へ 次へ
全844ページ中709ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング