言い知れぬ悲しさを覚えながら、後姿を見送っていた。ああ、あの人も最後の瞬間まで、自分が紙幣をもみくちゃにして地べたへ放り投げようとは、夢にも考えなかったろう。アリョーシャにはそれがよくわかっていた。彼は走りながら、一度も後をふり返らなかった。けっしてふり返らないだろうということは、アリョーシャもよく承知していた。彼は二等大尉の後をつけて、声をかけようという気にはならなかった。その理由も彼にはよくわかっていた。相手の姿が見えなくなったとき、アリョーシャは二枚の紙幣を拾い上げた。紙幣はただ、皺くちゃになって、砂の中にめりこんでいるばかりで、アリョーシャが広げて皺を伸ばしてみると、破れたところもなく、まるで新しい物のように、ぱりぱりしていたほどであった。彼は皺を伸ばして、それをたたむと、ポケットに入れて、頼まれたことの結果を報告するために、カテリーナのもとをさして歩き出した。
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第五篇 Pro et contra
一 婚約
アリョーシャをまず最初に出迎えたのは、やはりホフラーコワ夫人であった。夫人はあわてていた。かなりたいへんな騒ぎが起こったのであった。カテリ
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