。フョードル・パーヴロヴィッチはまた少し別な見地から彼を眺めるようになった。スメルジャコフの癲癇の発作がますます烈しくなってきて、そういう日には食事の調理をマルファ・イグナーチエヴナが代わってしたが、それがフョードル・パーヴロヴィッチにはどうにも我慢がならなかったのである。
「どうしておまえの発作はこうだんだん度重なってきたのだろうな?」彼は新しい料理人の顔を流し目に見やりながら、こう言った。「おまえ、嫁をもらったらどうだな。なんなら世話してやるが」
 しかし、スメルジャコフはこのことばを聞くと、ただ腹が立ってまっさおな顔をしただけで、返事ひとつしなかった。でフョードル・パーヴロヴィッチも手を一つ振っておいて、その場をはずしてしまった。しかし何よりも重大な点は、彼がこの青年の正直さを絶対に信用して、相手がけっして物を取ったり盗んだりしないと信じきっていることであった。ある時、フョードル・パーヴロヴィッチは酔っ払っていたために受け取ったばかりの虹幣を三枚自宅の庭のぬかるみへ落としたことがある。あくる日になってはじめて気がついて、あわててポケットの中を捜しにかかったが、ふと見れば、虹幣は三
前へ 次へ
全844ページ中363ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング