分別があった。が、それでいて彼女は夫婦になったそもそもの初めから、なんの不平も言わず黙々としてグリゴリイに心服し、その精神的に卓越した点で彼を絶対に尊敬していた。変わっていたのは、この夫婦が生涯、きわめて必要な当面の事柄以外には、ごくごくまれにしか口をきかなかったことである。ものものしくどっしり構えたグリゴリイはいっさい自分の仕事や気配りをいつも一人で考えていたので、マルファ・イグナーチエヴナも、良人が自分の助言など少しも必要としていないことをとうの昔から知っていた。彼女は良人が自分の無口の価値を認めて、そのため自分を賢いものとみてくれるのだと悟っていた。グリゴリイはけっして妻を折檻《せっかん》したことがなかった。もっともたった一度、それもほんのちょっと打ったことはある。フョードル・パーヴロヴィッチがアデライーダ・イワーノヴナと結婚したその年のこと、あるとき、当時まだ農奴であった村の娘や女房どもが、田舎《いなか》の地主邸へ呼び集められて歌ったり踊ったりしたことがある。『草原で』の踊りが始まったとき、当時まだ若かったマルファ・イグナーチエヴナが突然、合唱隊《コーラス》の前へ飛び出して、特
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