アリョーシャは黙ってまじまじとこの光景を眺めながら、釘づけにされたように突っ立っていた。フョードル・パーヴロヴィッチはそのあいだに馬車へ乗りこんでいた。それに続いて、別れのためにアリョーシャのほうをふり向きもしないで、イワン・フョードロヴィッチが無言のまま、むっつりして馬車に乗ろうとしていた。しかしここで、あたかもこの插話《エピソード》の不足を補うかのように、滑稽《こっけい》なほとんどあり得べからざる一幕が演じられた。ほかでもない、不意に馬車の踏み段のそばへ地主のマクシーモフが現われたのである。彼は遅れまいとして、息を切らせながら駆けつけたのだ。ラキーチンとアリョーシャは彼が走って来る様子を目撃した。彼は恐ろしく取り急いで、まだイワン・フョードロヴィッチの左足が載っかっていた踏み台へ、もう我慢しきれないで片足かけると、車台につかまりながら馬車の中へ飛びこもうとした。
「わたくしも、わたくしもごいっしよに!」と、小刻みな嬉しそうな笑い声をたてて、恐悦らしい色を顔に浮かべなから、どんなことでもやってのけそうな意気ごみで、潜りこもうとしながら彼は叫んだ。
「わたくしも、お連れになって!」
前へ
次へ
全844ページ中257ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング