連中が言ったりした。それに多くの人が、彼はときどき道化者の面目を一新して、人の前へ出るのを嬉しがって、いっそうおかしくするために、彼らに自分の滑稽な立場に気がつかないようなふりをするのだとよけいなことまで言っていた。もっとも、それはおそらく、彼にあっては、無邪気なことであったかもしれぬ。ついに、彼は出奔した妻の行方を突きとめた。哀れな女は教師とともにペテルブルグへ落ちのびて、そこできわめて奔放自由な解放《エマンシペーション》に惑溺《わくでき》していたのであった。フョードル・パーヴロヴィッチは、さっそくあわて出して、自身でペテルブルグへ出かける準備をした。――なんのために? ということは、もとより、自分でもわからなかった。彼は実際、そのとき本当に行きかねなかったのであろうが、しかし、この決心を固めると同時に、彼は元気をつけるために、出発の前に、あらためて思いきりひと浮かれするのが当然の権利だと考えついた。ところが、まさにこの時であった。妻がペテルブルグで亡くなったという知らせが、彼女の里方へ届いたのである。彼女はどうかして、どこかの屋根裏で急に亡くなったのであった。一説には、チフスで亡く
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