」
「それに、そのときは屋根裏からおっこちたっていうじゃないか」
「屋根裏へは毎日上がりますからね、明日にもまた屋根裏からおっこちないものでもありませんよ、もし屋根裏でなければ、穴蔵へおっこちるかもしれません、穴蔵へ行く用事も毎日ございますからね」
イワン・フョードロヴィッチは長いあいだ、彼をじいっと見つめていた。
「何か小細工をしているな、ちゃんと見え透いてるぞ、第一おまえの言うことはどうもよくわからん」と低くはあったが、なんとなくおどしつけるような調子で彼は言った。「どうだおまえは明日から三日のあいだ、癲癇のまねでもするつもりじゃないのか? え、おい?」スメルジャコフはじっと地面を見つめたまま、またしても右足の爪先でこそこそ悪戯《いたずら》をしていたが、今度は右足を元の所へ引っこめて、その代わりに左足を前へ出してから、顔を上げると、にやりと一つ薄笑いをして、こう言った。
「もしわたくしが、それをやるとしましても、つまりそのまねごとをするとしましても、――それは経験のある人には別にむずかしいことではありませんからね――わたくしは自分の命を助けるためにやることですから、それに対して十分な権利を持っているはずでございますよ、わたくしが病気で寝てさえいれば、たとえアグラフェーナ・アレクサンドロヴナが旦那のところへお見えになっても、病人をつかまえて『なぜ知らせなかった』と責めるわけにはまいりませんよ、御自分でも恥ずかしくお思いになることでしょうから」
「えい、畜生!」イワンは憤りのために顔をゆがめながら、不意に飛び上がった。「なんだって貴様は自分の命のことばかり心配してるんだ! そんな兄貴のおどし文句は腹立ちまぎれにすぎんさ、それっきりのことだよ、兄貴はおまえなんか殺しゃしないよ、もし誰かを殺すにしても、おまえじゃないよ!」
「蠅《はえ》かなんぞのようにたたき殺しておしまいなさいます、まず第一番にわたくしがやられるのです、しかし何より恐ろしいことが別にありますよ――つまり旦那に対して、何かばかなことでもしでかしなすった場合に、あの人と共謀《ぐる》のように思われるのが恐ろしいのでございます」
「どうしておまえが共謀《ぐる》のように思われるんだ」
「わたくしが共謀《ぐる》のように思われるわけは、例の合い図を、ごく内々でお知らせしたからですよ」
「合い図ってなんだ? そして
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