ヒた。
「まず第一にだ、ロシア式に則《のっと》るためなのさ。こうした問題に対するロシア人の会話というものは必ず、このうえもなくばかげた風に運ばれるからな。第二には、やはりばかげているほど、事実に接近することになるからだ。愚鈍というやつは簡単でずるくはないが、知はどうもごまかしたり、隠れたりしたがる。賢明は卑劣漢だが、愚鈍はむきで正直者だ。僕は自暴自棄というところまで事を運んでしまったから、ばかばかしく見せれば見せるだけ、僕にとってはいよいよ都合がよくなってくるんだ」
「兄さんは何のために『世界を許容しない』のか、そのわけを話してくださるでしょうね?」とアリョーシャが言った。
「それはね、むろん説明するよ、何も秘密じゃないし、そのために話をここまで漕ぎつけたんだから。なあ、アリョーシャ、僕は何もおまえを堕落させて、その足場から引きおろそうとはけっして思わないよ、それどころか、もしかしたらおまえに治療してもらうつもりかもしれないんだよ」と不意にイワンは、まるで小さなおとなしい子供のようにほほえんだ。アリョーシャは今までに、一度として彼がこんな笑い方をするのを見たことがなかった。
四 謀叛《むほん》
「僕は一つおまえに白状しなければならないんだよ」とイワンは話しだした、「いったい、どうして自分の隣人を愛することができるのやら、僕にはどうにも合点がいかないんだ。僕の考えでは隣人であればこそ愛することができないところを、遠きものなら愛し得ると思うんだがな。僕はいつか何か物の本で、『恵み深きヨアン』(ある一人の聖者なのさ)の伝記を読んだことがあるんだ。なんでも一人の旅人が飢え凍《こご》えてやって来て、暖めてくれと頼んだものだから、この聖者は旅人を自分の寝床へ入れて抱きしめながら、何か恐ろしい病気で腐れかかって、なんともいえぬいやな臭いのする口へ、息を吹きかけてやったというのだ。でも、聖者がそんなことをしたというのは痩せ我慢からだよ、偽りの感激のためだよ、義務観念に強制された愛からだよ、自分で自分に課した苦行のためだよ。誰かある一人の人間を愛するためには、その相手に身を隠していてもらわなくちゃだめだ。ちょっとでも顔をのぞけられたら、愛もそれきりおじゃんになってしまうのさ」
「このことはゾシマ長老がよく話しておられましたよ」とアリョーシャが口を入れた、「長老様もやっぱり、
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