のほうでお茶を飲んでいるだけであった。それに反して、他の部屋では、料理店につきものの騒々しい音――ボーイを呼ぶ叫び声や、ビールの口を抜く音や、玉突きのひびきが沸きたっていて、オルガンのうなり声が聞こえていた。アリョーシャは、イワンがこの料理屋へほとんど一度も来たことがないということも、概して彼が料理屋というものを好かないということもよくよく知っていた。だから、イワンがここへ来たわけは、ただドミトリイに会う約束のためであろうと考えた。ところが、兄ドミトリイの姿はそこになかった。
「魚汁《ウハー》か何かあつらえようかね。まさか、おまえもお茶ばかりで生きてるわけでもあるまいからね」と弟をつかまえたことに、ひどく満足したらしい様子でイワンが言った。彼自身はもう食事を終わって茶を飲んでいたのである。
「魚汁をください、そのあとでお茶もいただきましょうよ、僕すっかりおなかが空《す》いてるんです」とアリョーシャは愉快そうに答えた。
「桜ん坊のジャムはどうかえ? ここにあるんだよ。覚えてるかな、おまえは小さい時分にポレーノフの家にいて、桜ん坊のジャムが大好きだったじゃないか?」
「そんなことをよく覚えていますね? ジャムもくださいよ。僕は今でも好きなんです」
 イワンはボーイを呼んで魚汁と茶と桜ん坊のジャムを注文した。
「何もかも僕は覚えてるよ、アリョーシャ、僕はね、おまえが十一のときまでは覚えてる、そのとき僕は十五だったんだな。十五と十一という年の違いは、兄弟がどうしても仲よしになれない年ごろなんだな。僕はおまえが好きだったかどうかさえ覚えていないんだ。モスクワへ出てから最初の何年かは、おまえのことなんかてんで思い出しもしなかったよ。その後おまえ自身がモスクワへやって来た時だって、たった一度どこかで会ったきりだったっけ、それにまた、僕はこちらへ来てもう四か月にもなるけど、今まで一度もおまえとしんみり話したことがない。僕は明日立とうと思うんでね、今ここに坐っていながら、ふとどうかしてあれに会えないかしら、しんみり別れがしたいものだと考えていると、そこへおまえが通りかかるじゃないか」
「それでは、兄さんはそんなに僕に会いたかったんですか?」
「とても。一度じっくりとおまえと近づきになって、また自分の腹の中をおまえに知ってもらって、それを土産《みやげ》に別れたかったんだ。僕の考えでは、
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