ゃるんですからね。ですけども、ぜひお願いしておきますが、わたしのことも、わたしのお話ししたことも、必ずあの人に言わないでくださいまし。でないと、わたしは理由《わけ》もなく殺されてしまいますからね」
「イワン兄さんが今日ドミトリイを料理屋へ呼んだって?」と、アリョーシャは早口に問い返した。
「そのとおりですよ」
「広場の『都』だな?」
「確かにあそこですよ」
「それは大いにありそうなことだ」とアリョーシャはひどくわくわくしながら叫んだ。
「ありがとう、スメルジャコフ、それは大切な知らせだ。これからすぐに行ってみよう」
「どうかおっしゃらないでくださいまし」とスメルジャコフが後ろから念を押した。
「大丈夫だよ。僕はその店へ偶然ゆき合わしたような風にするから、安心しておいで」
「あら、あなた、どこへいらっしゃいますの? 今わたし耳門《くぐり》をあけてさしあげますわ」とマリヤが叫んだ。
「いや、こちらが近いですよ、また垣を超えてゆきます」
この知らせは非情にアリョーシャの心を打った、彼はまっすぐに料理店をさして急いだ。彼の服装《みなり》で料理店にはいるのは妙であったが、階段のところで尋ねてから呼び出してもらうという手もあった。しかし、彼が料理店のそばへ近づいたばかりのとき、不意に一つの窓があいて、兄のイワンが窓から下を見おろしながら呼びかけた。
「アリョーシャ、おまえは今すぐにここへはいって来るわけに行かないかえ、どうだい? そうしてくれると実にありがたいんだが」
「ええ、いいのくらいじゃありませんよ、でも、こんな服装ではいって行ってもいいかどうか、それがわからないだけです」
「だって、ちょうどいいあんばいに僕は別室に陣取ってるんだ。かまわずに玄関からはいっておいでよ、僕が今迎えに駆け出して行くから……」
一分間の後、アリョーシャは兄と並んで坐っていた。イワンは一人きりで食事をしていたのである。
三 兄弟相知る
もっとも、イワンが陣取っていたのは別室ではなかった。それはただ、窓のそばの衝立《ついたて》で仕切っただけのところにすぎなかったが、それでも中に坐っていると、はたの人からは見えなかった。その部屋は、入口から取っつきの部屋で、横のほうの壁ぎわにはスタンドがあり、ボーイがあちこちと絶えず動き回っていた。お客といっては、退職の軍人らしい老人がただ一人、隅っこ
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