「いったい僕が信じてたのは悪いことなんでしょうか?」と不意にアリョーシャは笑いだした。
「嘘よ、アリョーシャ、かえっていいことだわ」とリーズは仕合わせらしい眼つきで優しく相手を眺めた。
 アリョーシャはやはり自分の手のなかに、彼女の手を取ったまま、じっと立っていたが、いきなりかがみかかってその唇のまん中へ接吻した。
「どうなさったというの? いったい、あなたどうなすったの?」とリーズは叫んだ。
 アリョーシャはすっかりまごついてしまった。
「もし間違っていたら御免なさい……ひょっとしたら、僕のしたこと、ひどくばかげたことだったかもしれませんね……あなたが僕を冷たいなどとおっしゃるもんだから、僕思わず接吻してしまったんです……しかし実際、妙なぐあいになってしまいましたね……」
 リーズはいきなり吹き出して、両手で顔を隠してしまった。
「おまけにそんな着物で!……」と言う声が笑いのあいだから漏れて聞こえた。
 が、急に彼女は笑うのをやめて、すっかりまじめな、というよりはむしろいかつい顔つきになって、
「ねえ、アリョーシャ、わたしたちは接吻はまだまだ控えなくちゃならないわ。だって、まだそんなことしてはいけないんですもの。わたしたちはまだまだ長いこと待たなくちゃなりませんわ」と彼女は不意にこう言ってくくりをつけた。「それよりわたしの聞きたかったのはね、どういうわけであんたはこんなばかを――病身なばか娘をお選みなすったの? あなたみたいな賢い、考え深い、よく気のつくかたが、どうしてわたしなんかを……ああ、アリョーシャ、わたしも本当に嬉しいわ。だって、あたしあなたに愛していただくだけの値打ち一つもないんですもの!」
「お待ちなさい、リーズさん、僕は二、三日のうちに断然お寺を出ます。いったん世間へ出た以上、結婚しなくちゃなりません、それは自分でよくわかっています。それに長老もそうしろとおっしゃるのです。ところで僕は、あなた以上の妻を娶《めと》ることもできなければ、またあなたよりほかには僕を選んでくれる人もありません。僕はこのことをもうよく考えてみました。まず、あなたは僕を小さい時分から知っている。次には、あなたは僕の持っていない多くの能力を持っている。あなたの心は僕の心より快活です。第一、あなたは僕よりはるかに無垢《むく》ですからね。僕はもういろんなものに触れました。いろんな
前へ 次へ
全422ページ中322ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング