かった……しかし、そんなことはなんでもありません、なぜって……」
「ええ、そんなことむろん、なんでもありませんわ、なんでもありませんわ! 御免なさい、アリョーシャ、後生だから……あのね、わたし今まであなたを尊敬していなかったわよ……いいえ、してはいたんだけれど、それほどでもなかったの、だけど、だけど今は一だん高く尊敬しますわ……あら、怒らないでね、わたしちょっと冗談を言っただけよ」と彼女は激しく情をこめて、すぐ自分で自分のことばを押えた。「わたし、こんなおかしい小娘なの。だけどあなたは、本当にあなたは! ねえ、アレクセイさん、わたしたちの考えには、いえ、つまり、あなたの考えには……いいわ、いっそわたしたちのということにしますわ、……あの不仕合せな人を卑しめたようなところはないかしら……だって、あの人の心を高いところからでも見下ろすようにして、いろいろ解剖したんじゃなくて? え? 今あの人がきっとお金を受け取るに違いないと、決めてしまったじゃないの、え?」
「いいえ、リーズさん、少しも見下げてなんかいませんよ」すでにこの質問あるを予期していたもののごとく、きっぱりとした調子で、アリョーシャは答えた。「僕はここへ来る途中、そのことについてはもう考えておきました。まあ、考えて御覧なさい。この場合、どうして見下げたところなんかあり得るでしょう。僕らだって、あの人と同じ人間じゃありませんか。世間の人はみんな、あの人と同じ人間じゃありませんか。ええ、僕たちだってあの人と同じことです。けっしてすぐれてはいません。たとい仮りにすぐれていても、あの人の境遇に立ったら、あの人と同じようになってしまいます。ところがあの人の心はけっしてあさはかではない、かえって非常に優しいところがあります……いいえ、リーズさん、あの人を見下げるなんてことはちっともありません! 実はね、リーズさん、長老が一度おっしゃったことがあります――人間てものは子供のように、しじゅう気をつけて世話をしてやる必要がある。またある者は、病院に寝ている患者のように看護してやる必要さえあるって……」
「まあ、アレクセイさん、偉いわね、病人にしてやるようにして、わたしたちは人を見てあげましょうね!」
「そうです、見てあげましょう、リーズさん、僕はいつでも喜んで見てあげますよ。しかし、僕はまだ本当に準備ができてない気がしています。
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