ただきたいの、悪く思わないでいただきたいの。わたしはいつもあの子を大目に見ていますの、だってそりゃ本当に利口な子なんですものね――そうお思いになりません? 今もこんなことを申しますの――『あの人はわたしの幼馴染《おさななじみ》よ――おまけにいちばんまじめなお友だちなのよ。それなのにわたしは? ……』あの子はこういうことにかけては、たいへんにまじめで、記憶も確かなのです。けれども、何よりも感心なのは、あのことばなんですの。本当に思いがけないことを、ひょいひょいと言いだすんですからね。たとえば、ついこのあいだも梅の木のことでおもしろい話がございますわ。あの子のごく小さい時分のこと、家の庭に一本の梅の木がありましたの。今でもやはりあるんですから、別に、何も過去のことにしてお話しすることなんかありませんわね。アレクセイさん、梅の木は人間と違って、長いあいだ変わらないものですわねえ、あの子は言いますの、『お母さん、わたしあの梅を夢のように覚えてるわ』って。――つまり『うめ[#「うめ」に傍点]をゆめ[#「ゆめ」に傍点]のように』と言うのですけれど、言い方はもう少し違っていました。だって、なんだかごちゃごちゃしていましたから。むろん、梅なんてばかばかしいことばですけれど、あの子はこのことで何かたいへん奇抜なことを言って聞かせましたので、わたしはどうしてもうまくお話しができませんの。それにもう忘れてしまいましたわ。ではもう失礼しますわ、わたしびっくりしてしまって、なんだか気が変になりそうですの。ねえ、アレクセイさん、わたしはね、もう今まで二度、気が変になって、療治してもらったことがありますのよ。それでは、リーズのところへいらっして、いつもなさるようにしてあの子を喜ばしてやってくださいましな。リーズや」と夫人は戸口のほうへ寄って行きながらこう叫んだ。「さあおまえがあんな失礼なことを申し上げたあのおかたをね、アレクセイさんを、お連れ申して来ましたよ。だけどちっとも怒ってはいらっしゃらないんだから安心しておいでな。いいえ、かえっておまえがそんなことを気にしているのを、不思議に思っていらっしゃるくらいよ」
「Merci, maman(ありがとう、お母さん)おはいりくださいな、アレクセイさん」
 アリョーシャははいって行った。リーズはなんだかきまり悪そうに見ていたが、不意にぱっと顔を赤くした
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