納めていただくように、ぜひあなたを説きつけてくれと僕に頼んだんです。このことは誰ひとり知る者がありませんから、とんでもない噂が立つ気づかいは全然ありません。で、これがその二百ルーブルです。僕、誓って申しますが、ぜひともあなたはこれをお納めにならんといけませんよ。……でないと、……でないと、世界じゅうの人はみんなかたき同士にならなくちゃならんという理屈になってきますからね! しかし、世の中には兄弟というものもあるわけじゃありませんか、……あなたは気高い心をもったおかたですから、……ぜひともお納めにならなければなりませんよ、ぜひとも!」
 と言って、アリョーシャは新しい二枚の虹色の札を差し出した。二人はそのとき、ちょうど籬《まがき》のほとりの、大きな石のところに立っていたが、あたりには誰もいなかった。二枚の紙幣は二等大尉に恐ろしい印象を与えたらしかった。彼は身を震わせたが、今のところは、ただ驚愕《きょうがく》のためばかりらしかった。彼は、こんな風なことは夢にも思わなかったし、こんな成り行きを予想だにしなかったからである。誰からにもせよ扶助金を、しかも、こんなにたいへんな金をもらおうなどとは、想像さえしたことがなかったのである。彼は紙幣を手にしながら、しばらくは、返事もできなかった。何かしら、まるで違った表情が彼の顔にちらついた。
「これをわたくしに、わたくしに、わたくしに! こんなたくさんなお金を、二百ルーブルという大金を! まあ! わたくしは、もう四年ばかりも、こんな大金を見たことがございませんよ、――まあ、これはこれは! それに、『妹から』とおっしゃるんでございますね、……それはいったい本当に、本当にでしょうか?」
「誓って申します、僕が今言ったことはみんな本当です!」とアリョーシャは叫んだ。二等大尉はちょっと顔が赤くなった。
「ところでね、あなた、お伺いしますけれど、もし、わたくしがこの金を受け取りましたら、卑屈な人間にならないでございましょうか? つまり、あなたの眼から御覧になって、わたくしが卑屈な人間にならないでございましょうか?」彼は両手を伸ばしてアリョーシャの体にさわりながら、ひとことひとこと急《せ》きこむのであった、「あなたは『妹の贈り物』だからと申して、わたしを説きつけなさいますけれど、心の中ではですね、肚の底では、わたくしを見下げた男だとお思いになる
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