んを行かせないように、できるだけの方法を講じますからね……」
 夫人の顔に喜びの色が輝いているのを見て、アリョーシャはいっそう悲しくなってきた。ところへ、カテリーナがいきなり引き返して来た。その手には虹色をした、百ルーブル札が二枚あった。
「アレクセイさん、わたしあなたに一つたいへんなお願いがあるんですけど」と彼女はいきなりアリョーシャに向かって話しかけた。その声は静かに落ち着いていて、まぎわに何事もなかったかのような風であった。「一週間――ええ、一週間前のことでしたの、――ドミトリイさんがあの熱しやすい性質にまかせて、非常に間違った、しかも不体裁きわまることをしでかしなすったんですの。それはあまりよくないところ、つまり、居酒屋であったことなんですが、いつかお父さんが何かの事件で、代理人にお頼みなすった例の予備二等大尉に、ドミトリイさんが出会いなすったのです。ところが、あの人はどういうわけか、この二等大尉に腹を立てて、大ぜいのいる前で相手の髯《ひげ》を引っつかんだのだそうです。そして、この見苦しい姿で、二等大尉を往来へ引きずり出して、長いこと往来を引き回したんですって。すると、この二等大尉には小さな男の子がおりましてね、ここの小学校へ通っているのだそうですが、この子はその様子を見ると、うろうろ父親のそばを駆け回りながら、大きな声で泣いたんだそうですの。そしてお父さんの代わりに謝ってみたり、あたりの人に加勢を頼んだりしても、みんな笑って見ていて取り合わないんですって。失礼ですけれど、アレクセイさん、わたしはあの人[#「あの人」に傍点]のこのけがらわしい行ないを思い出すたびに、義憤を感じないではいられません、……こんなことはほんの腹立ちまぎれの……夢中になったときのドミトリイさんでなければ、とても思いきってできないような仕打ちです! わたし、もうこの話をすることができません。気力がないんですの、……どう言っていいかわからないんですの。で、わたしはこの相手のことを調べてみましたところ、非常に貧しい人だということがわかりました。名字はスネギーレフというのだそうです。何かで勤めのほうで失敗があって、免職になったのですが、どんなことがあったのか確かなことはお話しできませんわ。この人はいま病身な子供たちと気ちがいのお内儀《かみ》さんという(たしかそんな話でした)不仕合わせな家族を
前へ 次へ
全422ページ中282ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング