いつが肉袋といっしょになって、退廃期の古代ローマ貴族そのままの顔ができあがっているんだ』それが彼の自慢なところらしかった。
アリョーシャは母の墓を見つけてほどなく、いきなり、父に向かって、自分は修道院へはいりたい、修道僧たちも自分が新発意《しんぼち》になることを許してくれたと言いだした。彼はまたそのとき、これは自分の格別な希望であるから、父としての厳粛な許しが与えられるように、ぜひともお願いすると説明した。老人は、この修道院内の庵室に行ない済ましているゾシマ長老が、自分の『おとなしい子供』に特殊な感銘を与えていることは、すでによく承知していた。
「あの長老は、そりゃあ、あすこではいちばん心の潔白な坊さんだよ」じっと黙ったまま何か考えこむような風でアリョーシャのことばを最後まで聞いて、彼はこう口を切ったが、わが子の願いに驚いた様子は少しもなかった。「ふむ……じゃあ、おまえはあすこへ行こうっていうのか、うちのおとなしい坊主!」彼は一杯機嫌だったが、突然、にやりと笑った。それは例の引きのばしたような、一杯機嫌ながらも、狡猾《こうかつ》さと、生酔いの本性を失わぬ薄ら笑いであった。「ふむ……だが、わしも、いずれはおまえが、何かそんな風なことになるだろうとは、感づいておったのだよ。どうだ、思いがけなかったろうが? おまえは全くあすこをねらっておったんだからの。が、まあ、しかたがないさ、おまえも二千ルーブルという自分の金を持っておるのだから、あれがまあ、持参金になるってものだ。わしもけっしておまえを打っちゃっときゃあせんからな、今だって、寺で出せと言うだけのものは、おまえのために寄進するよ。だが、もし出せと言わなければ、なにもこっちから出しゃばったことをするにも当たるまいよ。そんなもんじゃないかえ? だって、おまえの金の使い方といえば、とんとカナリヤとおんなじで、一週間に二粒ずつもありゃたくさんだろうよ――ふむ……ときに、なんだな、あるお寺のことなんだが、そこにはちょっとした控え屋敷のようなものがあって、その中には、誰でも知っておることだが、『お囲い女房ばかりが住んでおる』のさ。なんでも三十匹ぐらいもいるらしいぞ……わしもそこへ行ったことがあるが、なかなかおもしろいわい。もちろん、一種特別な、変わっておるというだけのおもしろさなんだけれど、ただ惜しいことに、恐ろしい国粋主義で、
前へ
次へ
全422ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング