ンたいなやつだから、すっかりここから姿を隠してしまうだろうよ、五年くらいのあいだ……いや、あわよくば三十五年だ。そして、グルーシェンカは連れて行かないのだよ。いや、いっそあれのことはきれいにあきらめてもらいたいのだ、承知するだろうか、え?」
「僕……僕、兄さんに聞いてみましょう……」とアリョーシャはつぶやいた、「もし三千ルーブルすっかり耳をそろえておやりになったら、あるいは兄さんも……」
「ばかを言え! 今となっては聞くに及ばん。なにも聞く必要はない! わしはもう考えなおしたんだ。ちょっと昨日そんなばかな考えが頭に浮かんだまでのことだ。何一つくれてやるものか、鐚一文《びたいちもん》だってやりはせん。わしは自分でも金がいるんだから」と老人は手を振った、「それよりも、あんなやつは油虫のように踏みつぶしてやる。あいつに何も言っちゃならんぞ、でないと、また当てにするだろうから。それにおまえもわしのところにおったって、なにもすることはないんだから、もう帰るがいい。ところで、あの許嫁《いいなずけ》のカテリーナさん、あの女をミーチャはいつも一生懸命に、わしからかくすようにしているが、いったい、あの子はミーチャと結婚するだろうか? おまえ昨日あの女のところへ行ったろう……」
「あの人はどんなことがあっても兄さんを見すてないでしょうよ」
「そのとおりだ、ああいう優しいお嬢さんがたは、あいつのような極道者や悪党を好くもんだ! わしに言わせれば、あんな顔色の悪いお嬢さんというものは、やくざな代物だ、普通じゃないんだからな……ああ! もしも、わしにあいつの若さと、あの年ごろのわしの顔があったら(なぜといって、二十八時代のわしは、あいつより男ぶりがよかったからな)、それこそ、わしもあいつと同じくらいには、女を泣かせてみせるんだが、畜生め! とにかく、グルーシェンカは手に入れさせはせんぞ、手に入れさせるものか……あんなやつ、へしつぶしてくれるわだ!」
最後のことばとともに、彼はまたすさまじいけんまくになってきた。
「おまえももう帰れよ、ここにおったところで、今はなんの用事もありはせん」と彼は鋭い調子で言いきった。
アリョーシャは暇《いとま》を告げるために彼に近づいて、父の肩に接吻した。
「なんだってそんなことをするんだ?」と老人はいささか驚いた様子で、「また会えるじゃないか、それとももう会
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