言うんだい? まさか僧院長様がフォン・ゾンであらっしゃるはずもなかろうぜ」
「でも、わたくしもフォン・ゾンではございません、わたくしはマクシーモフです……」
「いんにゃ、おまえはフォン・ゾンだよ。方丈様、フォン・ゾンというのは、何者か御存じでございますか? これはある犯罪事件に関係したことでございますよ。この男は悪所で殺されたんです――お寺様のほうではああいう場所をこう申すそうですな――殺されたうえに、裸に剥《は》がれて、おまけにいい年をしておりながら、箱の中へたたきこまれて、貨物列車でペテルブルグからモスクワへ発送されたんですよ、しかも番号を付けられましてね。ところで箱の中へたたきこまれるとき、売女《ばいた》どもが歌をうたったり、手琴つまりピアノですな、あれを弾《ひ》いたりしたそうですよ。これが今申した当のフォン・ゾンなのでございます。それが墓場から生き返って来たのですよ。そうだろう、おいフォン・ゾン?」
「いったいこれはなんたることだ? どうしたというのだろう?」そういう声が僧たちのあいだから聞こえた。
「行こう!」と、ミウーソフはカルガーノフに向かって叫んだ。
「いんや、失礼じゃがな!」と、また一度部屋の中へ踏んごみながら、フョードル・パーヴロヴィッチがかん高い声でさえぎった。「まあ、わしにも言うだけのことを言わしてください。あちら※[#「魚+夫」、166−2]《かまつか》庵室でわしはぶしつけ者という汚名を着せられましたが、それというのも、わしが※[#「魚+夫」、166−2]《かまつか》のことをほざいたからなんですよ。わしの親類すじのミウーソフさんのお好みでは、ことばの中に 〔plus de noblesse que de since'rite'〕(真摯さよりは気高さがいい)んだそうですがな、わしの好みはその反対で 〔plus de since'rite' que de noblesse〕(気高さよりは真摯さがいい)んですよ。noblesse(気高さ)なんかくそくらえだ! なあそうじゃないか、フォン・ゾン? 院長様へ申し上げます、わたくしは道化者で、道化じみたまねばかりいたしますが、それでも名誉を重んずる騎士でございますから、忌憚《きたん》なく所信を申し上げたいと存じます。さよう、わたくしは名誉を重んずる騎士でございます。ところが、ミウーソフさんの肚の中には、傷つ
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