ないがね……だから、あの人がグルーシェンカを軽蔑してるに決まっていても、この際、軽蔑なぞ何の役にも立ちはしないさ。軽蔑しているくせに、離れることができないんだ」
「それは僕にもわかる」と、アリョーシャがだしぬけに口をすべらせた。
「へえ? 君がそんなにいきなり、わかるって言ってのけたところをみると、君はこのことが本当にわかってるんだね」とラキーチンは意地悪くほくそえみながら言った。「君は今、何の気なしに、ふいと口をすべらせたんだが、それだけ君の告白はよけいに尊いんだよ。つまりこの問題はもう君にはお馴染《なじみ》なんだね。この肉欲ということを、もう考えてたんだね! おやおや、たいへんな童貞だよ! と言いたくなるね。ねえ、アリョーシュカ、君がおとなしい聖《けだ》かい人間だってことには、僕も異存はないが、おとなしいくせに君はたいへんなことを考えてるんだね、本当にたいへんなことを君は知ってるんだね! 童貞でありながら、もうそんな深刻なところへ進んでいるんだ。それは僕も前から気づいていたよ。君自体やはりカラマゾフだ、完全無欠なカラマゾフだ――つまり何か血統とでもいうのかなあ。親父のほうからは好色の、母親のほうからは宗教的奇人《ユロージウイ》の性質を受け継いだんだ。何を震えるんだ? それとも図星をさされたのかい。ときにね君、グルーシェンカが僕に頼んだんだぜ、『あの人を(つまり君のことさ)連れて来てちょうだい、あたしあの人の法衣を脱がしちゃうから』ってさ。そりゃあ、全く熱心に頼むんだ、連れて来い連れて来いって! 僕あ考えちまったよ、なんだってこの女は、こうまで君に興味を持つのかと思ってさ。ねえ君、あれであの女も、なかなか非凡な女だよ!」
「よろしく言って、僕は行かないと伝えてくれたまえ」ここでアリョーシャは苦笑いをした。「それよりかミーシャ、言いさしたことを話してしまいたまえ。後で僕の考えを話すから」
「話してしまうもしまわないもありゃしない、何もかも明白だあね。こんなこたあ古臭い話だよ。もし君の中に好色漢が隠れているとすれば、同腹の兄さんのイワンはどうだろう? あの人もやはりカラマゾフだからね。ここに君たちカラマゾフ一族の問題が潜んでいるのさ。――好色漢と、守銭奴と、宗教的奇人《ユロージウイ》か! 今イワン君は無神論者のくせに、何か恐ろしくばかげた、わけのわからない目算のために
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