。フョードル・パーヴロヴィッチはそのとき、はじめて会ったばかりで、ミーチャが自分の財産について、誇張した不正確な考えをいだいていることを見て取った(これも記憶しておかなければならぬ)。フョードル・パーヴロヴィッチは特殊な目安をおいていたので、このことにすっかり満足した。この若者は、ただ軽はずみで乱暴で、愛欲の強い、気短かな放蕩者にすぎない。だから、時たま少しばかり握らせさえすれば、むろんほんの当座だけのことではあるが、たちまちおとなしくなってしまうものと断定した。そこで、これをいいことにして、フョードル・パーヴロヴィッチは時おりほんの申しわけばかりの仕送りをしてその場をのがれていたが、ついに、それから四年ののち、ミーチャは堪忍袋の緒を切らして、きれいさっぱりと父親との交渉をかたづけるために、またもやこの町へやって来た。さて、来てみると、自分にはまるきりなんの財産もないことがわかって、少なからず驚いた。今ではどれくらいあったか勘定するのもむずかしいが、自分の全財産の価格に相当する金は、すでに全くフョードル・パーヴロヴィッチから引き出してしまって、ことによったら父親に対して、借りさえもあるかもしれず、これこれのときに、彼自身の希望によって取り結んだこれこれの約束によって、彼はもう何一つ要求する権利もなくなっているなどということがわかったのであった。青年は愕然《がくぜん》として、嘘《うそ》ではないか、騙《かた》りではないかと疑い、ほとんどわれを忘れて、まるで気でも違ったようになってしまった。実にこの事情が一大|破綻《はたん》への導火線をなしたのであり、その前後の叙述こそは自分の第一の序説的小説の主題、というよりは、その外面的な方面を形づくっているのである。しかし、この小説に取りかかる前に、さらにフョードル・パーヴロヴィッチの次男、三男、つまりミーチャの二人の弟についても物語っておかなければならぬ。また、彼がどこから現われて来たかということも説明しておかなければならぬ。
三 再婚と腹違い
フョードル・パーヴロヴィッチは四つになるミーチャを手もとから追いのけてしまうと、間もなく、二度目の結婚をした。この二度目の結婚生活は八年続いた。その後妻の、やはりかなりに若いソフィヤ・イワーノヴナという女は、彼があるユダヤ人と連れ立って、あるほんのちょっとした請負仕事のために出
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