つい夢中になったのです、ほんとに御免なさい、皆さん、夢中になってしまったのです、おまけに打ちのめされたのですからな! ほんとに恥ずかしいことです。ねえ、皆さん、人によっては、マケドニア王アレクサンドルのような心を持っておるかと思えば、また人によっては、フィデルコの犬みたいな根性を持ったのもあります。わしの心はフィデルコの犬のほうでしてな、すっかり気おくれがしてしまいましたよ! あんなろうぜきを演じた後で、どの面さげてお食事《とき》に出たり、お寺のソースをたいらげたりできますかい? とても恥ずかしくって、そんなことはできませんよ、失礼します!」
「とんとわけのわからない男だ、あるいはいっぱいくわすのかもしれないぞ!」だんだん遠ざかって行く道化者をけげんな眼つきで見送りながら、ミウーソフは思案にくれた。フョードル・パーヴロヴィッチはふり返って相手が自分を見送っているのに気がつくと、投げ接吻を送るのであった。
「いったい君は修道院長のところへ行くのですか?」と、ミウーソフはぶっきらぼうにイワン・フョードロヴィッチに尋ねた。
「どうして行かないわけがありましょう? それに、僕は昨日から修道院長に特別な招待を受けているのですからね」
「不幸にして、僕も同様、あのいまいましいお食事《とき》に、いやでも出席しなければならないように思うのですよ」とミウーソフは、僧が聞いているのもおかまいなく、例のにがにがしそうないらだたしい調子で語をついだ。「それにわれわれがしでかしたことをあやまったうえで、あれは僕たちのせいでないことを、説明するためにもねえ……君はどう思いますか?」
「そう、あれが僕たちのせいでないことを、明らかにする必要がありますね。それに親父も出ないことですから」とイワン・フョードロヴィッチが答えた。
「そうさ、君の親父さんがいっしょでたまるもんか! 本当にいまいましい食事だよ!」
 だがしかし、一同は先へ進んで行った。僧は押し黙って、耳をすましていた。たった一度だけ、森を通って行く道すがら、修道院長がずっと前から一行を待っていることと、もう半時間以上も遅くなっていることを注意しただけであった。誰ひとりそれに答えるものはなかった。ミウーソフは憎々しげにイワン・フョードロヴィッチを見やりながら、
『まるで何事もなかったように、しゃあしゃあとしてお食事《とき》へ出ようとしていや
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