づいたのを見ると、どれよりも擢《ぬき》んでゝ、真つ先を駆けてゐるのは、きのふワシリが乗つて来た鼠色の馬である。一歩毎にその馬と外の馬との距離が遠くなる。一分間の後には、もう一群は己の目の前を通り過ぎてしまつた。
見物してゐた韃靼人の目は皆輝いてゐる。逆上と妬《ねたみ》との為めである。
騎者は皆馬を走らせながら、手足を動かして、体をずつと背後《うしろ》へ反らせて、大声でどなつてゐる。只一人ワシリだけはロシア風に乗つてゐる。体を前に屈めて、馬の頸を抱くやうにして、折々短い、鋭い、口笛を吹くやうな声を出す。それが馬には鞭で打たれるやうに利くのである。鼠色の馬は脚が殆ど地を踏まないやうに早く駆けて行く。
見物人の同情は、矢張り例の如く勝手《かちて》の上に集まつてゐる。
「豪《えら》い奴だ」と大勢が叫ぶ。競馬好に極まつてゐる、長年|馬盗坊《うまどろばう》をして来た、この男達は馬の蹄で地を踏む拍子を真似て、平手で腰をはたいてゐる。
ワシリは全身に泡を被《かぶ》つた馬に乗つて、帰つて来る途中で、己の側へ来た。負けた騎者はまだずつと跡になつて付いて来る。
ワシリの顔は青くなつて目は逆《のぼ》
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