の目の前で渡して貰ひたい。さうすれば己が帰つた時、百姓共が証人になつて、己に安心させてくれる事が出来るのだ」と云つたさうです。
この土地へもサルタノフが殺された話は、もう聞えてゐました。それですから留守番はわたくし共の顔を見て、気味を悪がつたやうでした。「サルタノフを遣つ付けたのはお前さん達だね。用心しないと危ないよ。」
「そんな事をしたのが、わたくし共だらうと、さうでなからうと、それはどうでも好いでせう。兎に角あなたは、わたくし共に補助でもしてくれるのですか、どうですか。ブランがスタヘイ・ミトリツチユさんに宜しくと云ひましたよ。」
「ブランはどこにゐるのだね。又樺太に遣られてゐるのですか。」
「えゝ。樺太に葬られてゐるのです。」
「おや/\。あの男は正直な、善い男でしたよ。今でもスタヘイ・ミトリツチユさんが折々噂をしてゐます。きつと亡くなつた事を聞かれたら、ミサの供養でもして遣られる事でせう。一体あの男の本当の名はなんと云つたか、お前さん達は知つてゐますかね。」
「いや。それは知りません。わたくし共は只ブランとばかり呼んでゐました。事に依ると、自分も本当の名を忘れてゐたかも知れませ
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