しかに十八ヱルストは歩いてゐる。うつかりしてゐると警戒線に打《ぶ》つ付かるぞ。」
そこでわたくし共は爺いさんに声を掛けました。「おい。ブラン。」
「なんだい。」
「もう追つ付けワルキに来るだらう。」
「まだまだ。」
かう云つて爺いさんは、ずん/\歩くのです。実はこの時今少しで、大変な目に逢ふところでした。為合《しあは》せな事には、わたくし共がふいと崖の所にボオトが一艘繋いであるのに気が付きました。そこで皆言ひ合せたやうに足を駐めたのです。
マカロフが行きなりブランを掴まへて引き戻しました。
どうも船があるからには、近所に人間がゐなくてはならないと思つたものですから、みんなで言ひ合せて、こつそり横道へ這入つて、森の中へ隠れました。これまで歩いて来た所は、河の縁で、河の両方の岸は茂つた森になつてゐるのです。
一体樺太といふ所は、春の間いつも霧が立つてゐる所です。その日にも一面の霧が掛かつてゐました。
丁度わたくし共が森の中の山道を登つて行つて、絶頂に近い所まで行つた時、風が出て谷の霧を海の方へ吹き払つたのです。その時警戒線の全体が、手の平へ乗せて見るやうに、目の前に見えたぢやあ
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