かな。だが、己はまだちつとも支度をしてゐない。」
「それは己が拵へて遣る。直ぐ遣る。何々がいるのだ。」
「好い上着が十二いる。」
「みんなはもう持つてゐるぜ。」
 ブランは詞に力を入れて繰り返した。「己のいふ事を聞いてくれ。みんなが上着を一枚づゝ持つてゐる事は、己も知つてゐる。だが、二枚づゝなくては行けないのだ。土人のボオトを手に入れるには、てんでに上着を脱いで遣らなくてはならない。それから好いナイフが十二本、鉞《まさかり》が二つ、鍋が三つだ。」
 ボブロフは仲間を集めて、ブランの云つた事を取り次いだ。
 仲間が不用の上着を持つてゐるものは、皆そこへ出した。この陰気な牢屋の中を出て、自由な天地に帰らうとして、大胆な為事に掛かる同志のものに対して、仲間で誰一人本能的に同情してゐないものはないから、上着の掛替《かけがへ》は惜まないのである。鍋やナイフも只で貰ひ集めたり、又少しの銭を出して、移住人から買ひ取つた。

     六

 新しい囚人が島に来てから十三日立つた。
 翌朝ボブロフがブランを森の中へ連れて行つて、入用の品も運んで遣つた。
 逃亡組は一同祈祷をして、ボブロフに暇乞ひをして
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