上へ倒して鞭で打つ。併し大抵は打ち殺してしまふから、名目《みやうもく》は減刑でも、実際は一思ひに銃殺せられるより苦しいのである。
 陰気な生活と運命の圧迫とに疲れて、沢《つや》の無くなつた老人の目は、どんよりして、何がどうなつても構はないといふ風に空《くう》を見てゐる。老人は物を言つてしまふと、隅の方に引つ込んで坐つた。
 囚人の大勢集まつてゐる所では、直覚的に法律に精通してゐるものがある。さういふ男が或る事件に就いて、しつかり考へた上で、刑の予言をすると、大抵|中《あた》るに極まつてゐる。この場合では、誰でも老人ブランの言つた事を、腹の中で成程と思はないものはなかつた。
 そこで一同ワシリの脱獄を幇助して遣る事に決議した。ワシリは「仲間」の為めに危険を冒したのであるから、仲間がその脱獄を幇助せずにゐるわけには行かない。
 第一の準備として、囚人一同は毎日受け取る食料のパンを、少しづゝ除《の》けて置いて、それを集めてワシリの携帯糧食にする事にした。
 それから一しよに脱獄する人を選抜するといふ事になつた。老人ブランはこれまで二度樺太から脱獄した経験がある。それだから第一に選抜せられた。
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