Uあつて、それが二人の中の邪魔にもなるし、又お前に不安を覚えさせてゐるらしく、わたしには見えるがね。あれは一体なんだらうね。」
此詞を聞いた時、打ち明ければ今だ。今言はずにしまへば、言ふ時がないと云ふ事が女の意識を掠めて過ぎた。女は思案した。「どうせ自分が黙つてゐたつて、此事が夫の耳に入《い》らずには済まない。もうかうなつて見れば、打ち明けたところで、此人に棄てられる気遣はない。併しこれまでになつたのは、ほんに嬉しい。若し此人に棄てられる事があるやうでは、わたしに取つては大変だから」と思案した。そして優しい目附でステパンが姿を見た。背の高い立派な巌丈な体である。女は今では此男を帝よりも愛してゐる。若しそれが帝でなかつたら、十人位此男の代りに人にくれて遣つても好いと思つてゐる。そこでかう言ひ出した。「あなたにお話いたして置かなくてはならないのでございますがね。わたくしあなたに隠し立をいたしては済みませんから。わたくし何もかも言つてしまひますわ。どんな事を言ふのだとお思ひなさいませうね。実はわたくし一度恋をしたことがございますの。」かう云つて女は又自分の手をステパンの手の上に載せて歎願す
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