、誰もがシモンを恐がり出すようになりました。がしかし、シモンの暮しは大へんゆかいなものでした。眼について欲しいなと思ったものは何でもシモンの所有《もの》でした。シモンが兵隊をさし向けると、兵隊はシモンの欲しいものを立ちどころに持って来ました。
 肥満《ふとっちょ》のタラスもまたゆかいに暮していました。タラスはイワンから貰った金を少しもむだに使いませんでした。使わないばかりか、ますますそれを殖やしました。タラスは自分の国中におきてやさだめを作りました。金はみんな金庫へしまい、人民には税金をかけました。人頭税や、人や馬車には通行税、靴、靴下税、衣しょう税などをかけました。それからなお、自分で欲しいと思ったものは、何でも手に入れました。金のためには人民は何でも持って来るし、またどんな働きでもしました。――と言うのは、人民たち誰もかれもが金が要ったからでした。
 イワンの馬鹿もやはり悪い暮しはしませんでした。亡くなった王様のおとむらいをすますとすぐ、王様の服をぬいで妃に箪笥《たんす》へしまわせました。そしてまた元の粗末な麻のシャツや股引《ももひき》、百姓靴をつけて、百姓仕事にかえりました。

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