やっつけてやろうと考えたのです。
「一つ私はあなた様にいいことをしたいと思います。よい智慧をおかししたいと存じます。で、まずお国に家を一軒たてて、商売をはじめましょう。」
と年よった悪魔は言いました。
「いいとも、いいとも。気に入ったらこの国へ来て暮してくれ。」
とイワンは言いました。
 翌くる朝この立派な紳士は、金貨の入った大きな袋と一枚の紙片《かみきれ》を持って広小路へ出て、こう演説しました。
「お前たちはまるで豚のような生活をしている。私はお前たちにもっといい暮し方を教えてやる。お前たちはこの図面を見て一つ家をこさえてくれ。お前たちはただ働けばよろしい。そのやり方は私が教え、おれいは金貨で払ってやる。」
 そう言ってかれは金貨をみんなに見せました。馬鹿な人民たちはびっくりしました。かれらの間には、これまで金と言うものがありませんでした。かれらは品物と品物を取かえ合ったり、仕事は仕事でかんじょうし合っていたのでした。そこでみんなは、金貨を見て驚きました。
「まあ、何て重宝なもんだろう。」
と言いました。
 それで、かれらは品物をやったり仕事をしたりして、紳士の金貨と取っかえはじめました。年よった悪魔は、タラスの国でやったと同じように、金貨をどしどし使い、人民たちは何でもかでも、またどんな仕事でも金貨と取っかえるためにやってのけました。
 年よった悪魔はほくほくもので喜びました。そして、
「今度はなかなか運びがいい。これじゃあの馬鹿もそのうちにタラス同様、身体《からだ》から霊《たましい》までおれのものにしてしまえるぞ。」
とひとりで考えました。
 しかし馬鹿どもは、金貨を手に入れるとすぐ、それを女たちにやって首飾にしてしまいました。娘たちはそれをおさげの中につけて飾りました。そして後には子供たちが、往来のまん中で、玩具《おもちゃ》にして遊びはじめました。誰もかも金貨をたくさん貰って持っていました。そこでもう貰おうとするものはなくなりました。けれども立派な紳士の家は、半分も出来てはいないし、その年|入用《いりよう》の穀物や牛などの用意も出来ていませんでした。そこで働きに来てもらいたいことだの、穀物や牛などを買いたいことだのを知らせて、もっとたくさんの金貨をやることにしました。
 しかし、働く人も、品物を持って来る人もありませんでした。時たま男の子や女の子たちが走って
前へ 次へ
全31ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
トルストイ レオ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング