襲はれた。頭が覚えず前屈みになつて、水がごぼ/\と口に流れ込むのである。
此時ドルフの目に水を穿《うが》つて来る松明の光が映つた。ドルフは最後の努力をして、自分がやつと貪婪《どんらん》な鮫の※[#「左は月、右は咢」、第3水準1−90−51、155−上−8]《あぎと》から奪ひ返した獲ものを、跡の方に引き摩つて浮いた。ドルフはやう/\の事で呼吸をすることが出来た。
岸の上の群は騒ぎ立つた。「ドルフしつかりしろ」と口々に叫んだ。
数人《すにん》の船頭は河原の木ぎれを拾ひ集めて、火を焚き附けた。焔は螺旋状によぢれて、暗い空へ立ち升《のぼ》る。
「こつちへ泳ぎ附け、ドルフ、こつちだ。我慢しろ。今一息だ。」大勢の声が涌くが如くに起つた。
ドルフはやう/\岸に泳ぎ附かうとしてゐる。最後の努力をして波を凌いで、死骸のやうになつた男の体を前へ押し遣るやうにして、泳いでゐる。焚火の赤い光が、燃える油を灌《そゝ》ぐやうに、ドルフの顔と腕とを照して、傍を漂つて来る男の顔にも当つてゐる。
ドルフはふと傍を漂つてゐる男の顔を見た。そして拳を揮つて一打打つて、水の中に撞き放した。口からは劇怒の叫が発せられ
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