54−上−15]を操つて、松明の火を波に障《さは》るやうに低く持つて漕いでゐる。
 能く人を殺すエスコオ川は、永遠なる「時」の瀬の如くに、滔々として流れてゐる。
     ――――――――――――
 ドルフは水面に二度浮かんで、二度共又潜つた。夜の不慥な影の中に、ドルフの腕が動き、其顔が蒼ざめてゐるのが見えた。
 ドルフは氷のやうな水層を蹴て、河のどん底まで沈んで行つたのである。忽ち水に住む霊怪の陰険な係蹄《わな》に掛かつたかと思ふやうに、ドルフは両脚の自由を礙《さまた》げられた。溺死し掛かつてゐる男が両脚に抱き附いたのである。これを振り放さなくては、自分も其男も助からないことが、ドルフに分かつた。両脚は締金《しめがね》で締められたやうになつてゐる。二人の間には激しい格闘が始まつた。そして二つの体は次第に河床の泥に埋まつて行く。死を争ふ怨敵のやうに、二人は打ち合ひ咬み合ひ、引つ掻き合つて、膚《はだへ》を破り血を流す。とう/\ドルフが上になつた。絡み附いてゐた男の手が弛んだ。そして活動の力を失つた体が、ドルフの傍を水のまに/\漂ふことになつた。ドルフもがつかりした。そして危険な弛緩状態に
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