ぼこ」などというのは如何にも気のせかせかした、また世帯というものに重きを置いている都会生活者のつけそうな名前で、髷の形を知らぬものでも名前をきいただけで、その形が目に浮かんで来るようである。
 京都へくると、また京都らしい情緒をその名称の中にたたえていて嬉しい。
 丸髷、つぶし島田、先笄、勝山、両手、蝶々、三ツ輪、ふく髷、かけ下し、切天神、割しのぶ、割鹿子、唐団扇、結綿、鹿子天神、四ツ目崩し、松葉蝶々、あきさ、桃割れ、立兵庫、横兵庫、おしどり(雄)と(めす)とあり、まったく賑やかなことであって、いちいち名前を覚えるだけでも、大変な苦労である。
 そのほかに、派生的に生まれたものに次のようなものがある。これは、どこの髷ということなしに各都市それぞれに結われているものだ。
 立花崩し、裏銀杏、芝雀、夕顔、皿輪、よこがい、かぶせ、阿弥陀、両輪崩し、ウンテレガン、天保山、いびし、浦島、猫の耳、しぶのう、かせ兵庫、うしろ勝山、大吉、ねじ梅、手鞠、数奇屋、思いづき、とんとん、錦祥女、チャンポン、ひっこき、稲本髷、いぼじり巻、すきばい、すき蝶など……
 よくもこれだけの名前をつけられたものだと思う。

 往古の女性の髪はみんな垂髪であった。それが、この国に文化の風が染みこんでくると、自然髪の置き場所にも気を使うようになり、結髪というものが発達して来た。
 むかしは誰も彼も、伸びた髪をうしろへ垂らしていたのであるが、そのうち働く女性達には、あまりながくだらり[#「だらり」に傍点]と垂れた髪は邪魔になって来た。
 そこで首のあたりに束ねて結んだ。そうして働きいいようにしているうちに、女性のこと故、その束ねかた結びかたに心を使うようになった――それが、結髪発達史の第一ページではなかろうかと考える。

 垂髪時代の女性の髪は一体に長かった。垂髪であるために手入れが簡単で、手入れをしても髪をいじめることがすくなかった。それで髪はいじめられずに、自然のままにすくすくと伸びていった。
 今の女性の髪の伸びないのは、いろいろの髷にして、髪をあっちへ曲げ、こっちへねじていじめつける故で、ああいじめつけては髪は伸びるどころか縮むばかりである。
 もっとも、今の若いひとは、わざわざ電気をかけて縮ましているのであるから、私などこのようなことを言っては笑われるかも知れないが……

 とにかくむかしのひとの
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